Menphys Top Page Interview 4
Vol. 3
関根江里子さん インタビュー記事
メンフィス大好き・ふとんさんが、頑張って生きる女性たちに会いに行き、A面(仕事など、オンの自分について)とB面(心と体のモヤモヤや、意外な素顔の一面)を語ってもらう「気になるあの人のA面/B面」。第3弾となる今回のゲストは、高円寺で90年続く老舗銭湯「小杉湯」の事業責任者・関根江里子さん。取材前に関根さんが番頭を務める小杉湯原宿で朝風呂をいただいて、体ポカポカで関根さんに会いに来ました。さて、どんなお話が聞けるでしょうか?
関根江里子(せきね・えりこ)
株式会社ゆあそび 代表取締役社長。小杉湯原宿 番頭。1995年上海生まれ、東京育ち。大学卒業後、スタートアップでの事業推進を経て、株式会社ペイミーで事業責任者、取締役COOを歴任。2022年に銭湯経営を目指して独立し、小杉湯の2号店「小杉湯原宿」プロジェクトへの参画を機に株式会社小杉湯へ。「小杉湯原宿」の経営を担い、2024年に分社化し同役職を務める。
父と過ごした銭湯が、私の原点
ふとんさん関根さん、はじめまして!今日は小杉湯原宿で朝風呂をいただいてきました。ミルク風呂とあつ湯、水風呂サイクルで体ポカポカです!お年寄りから若い方まで、みんな気持ちよさそうに湯に浸かっていました。ポコポコと湧き出る泡の音も心地よくて、原宿のど真ん中にいることを忘れてしまいそうです。
関根さん嬉しいです!ありがとうございます。
ふとんさん早速なんですが、お仕事のことやオンの自分についてなど、関根さんのA面について聞きたいです!まず、銭湯との出会いを教えてもらえますか?
関根さん出会いは幼少期ですね。小学校に入る前、4〜5歳くらいまで父親と一緒に通っていました。私は父が還暦の時に生まれた娘だったので、周りから見たら「おじいちゃん?」って聞かれることが多くて。正直、それがちょっと面倒だったんです。何回聞かれても「お父さんです」としか言えないし。
ふとんさんたしかに、答えようがないですよね。
関根さんでも銭湯では、私のことをみんな「関根さんの娘さんだよね」くらいで知っててくれて、深く干渉されない。その距離感が心地よかったですね。
ふとんさんお父さんと通う銭湯、大切な時間だったんですね。
関根さん当時の父は掃除の仕事をしていて、朝早くから働いて、ちょうど銭湯が開く時間に終わるんです。幼稚園から帰ってきた私と一緒に銭湯に行くのがお決まりで。週に1〜2回は必ず行く場所でした。
「銭湯を経営しよう」と決めた日
ふとんさんそこから、いつ銭湯の仕事をしようと思ったんですか?
関根さん26歳の時です。当時、金融のスタートアップで経営メンバーとして働いていたんですけど、周りの経営者のように「金融で日本を良くしたい」という強い思いがなくて。金融で社会を良くするのは、他の人がやるべきなんだろうなって。ここで自分ができることの限界を感じていました。
ふとんさん本当にやりたいことって何だろう、と。
関根さんそうなんです。ちょうど見つめ直していた時期に、取締役会の帰りに銭湯に寄ったんです。そしたら、おばあちゃんがいて。20分くらいどうでもいい話をしたんですよね。
ふとんさんどうでもいい話、したくなるときありますよね(笑)。
関根さんそうそう、天気の話とか、本当にたわいもない話。でも、その何でもない時間がすごく心地よくて。それで「私は銭湯を経営しよう」って決めました。どれだけ聞かれても、もうそれ以上のことはないんですよね(笑)。
ふとんさんその瞬間に!?
関根さん突然で、自分でもびっくりしました。でも、本当に社会にとって良いことがしたい、そういう場所で自分の命を燃やしたいって、ずっと思っていたんです。
ふとんさんそれが、銭湯だった。
関根さんはい。銭湯だったら、この気持ちで一生やっていける。心からそう思えたんです。
知らない人と裸で過ごす空間が、優しかった
ふとんさん関根さんにとって、銭湯ってどんな存在なんですか?
関根さん父親と過ごした銭湯以上に、良い社会はなかったなって思っています。
ふとんさん良い社会……?
関根さん大げさに聞こえるかもしれないんですけど、いろんな人の生活の中に銭湯があれば、もっとみんなが幸せになれると思っていて。すごく幸せになるってことじゃなくて、最悪な日だったけど「まぁ、いいか」って思えるとか、何もなかった日でも湯上がりの夜風が気持ちいいなぁ、とか。本当にちょっとのプラスでいいんです。
ふとんさんちょっとのプラスかぁ。そこに気づける瞬間って……なかなかないかも。
関根さんあと、人との関係性がすごく近いわけでも遠いわけでもないのに、知らない人と裸で湯に浸かる。その空間が優しいんですよね。そういうものが、私にとっては「作りたい社会のすべて」なんです。
肩書きのない社会を、銭湯でつくりたい
ふとんさん「社会を良くしたい」という思いは、いつ頃から持っていたんですか?
関根さんたぶん小学生の時からですね。父は毎日18時間働いて、母も共働きで、教育ローンを組んで私を小学3年生から塾に通わせてくれたんです。でも、塾に通う子の親御さんって、いいコートを着て、いいバッグを持っていて。父が迎えに来たら冷たい目で見られたり、母も国籍だけだけで差別されたり。20年前はそういう時代でした。
ふとんさんそれは……辛かったですね。
関根さん両親を介して見る社会って、私にとっては良い思い出がなくて。漠然とした怒りみたいなものを、ずっと小学生の時から抱えていました。当時は「雛人形を飾る余裕のある家の子に、絶対負けたくない」って思っていました。ちょっとこじれた表現なんですけど(笑)。でもそれくらい、人を見た目や肩書きで判断する社会に対して、怒りがあったんです。
ふとんさんその怒りが、今につながっている。
関根さんはい。よく銭湯のことを話すときに、”肩書きのない社会が素晴らしい”って伝えるのですが、日常生活ではなかなかそうはいかないことも多い。でも銭湯って、服を脱いでしまえば誰も何も言わないし、属性に関係なく湯に浸かれる唯一無二の場所。あの空間が社会に増えたら、もっと優しい世界になるんじゃないかって思っています。
B面その1:自分を責めていた高校時代
ふとんさんここからはB面、心と体のモヤモヤや素顔の部分について聞かせてください。ゆらぎやイライラを感じることってありますか?
関根さんたくさんあります。
ふとんさんいつ頃から感じ始めたんですか?
関根さん高校2年生くらいからですね。当時、過眠症みたいな状態で、日中は眠いを通り越して気づいたら寝てるみたいな。授業中も寝てしまうことがあって。
ふとんさん自分じゃどうにもならないの、悔しいですよね。
関根さん当時は、自分が怠惰なんだって思っていました。周りはみんな運動も勉強もできて、私は普通の生活をするだけでいっぱいいっぱいで。「自分はダメだな」ってずっと感じていました。
ふとんさん自分を責めちゃっていたんですね。
関根さんゆらぎ期のイライラもしんどかったんですけど、どう対処するとか考えたこともなくて。「そういうもんだ」って諦めてました。
B面その2:「解決できるんだ」って知った日
ふとんさんそこから変わったきっかけってあったんですか?
関根さん大学生の時に医学部の知り合いがいて。「めっちゃ辛い」って言ったら、「そうだよね、だってそういう時期だもんね」って返されたんです。
ふとんさん共感というよりも、解説者……?
関根さんそうなんです。私、共感されるより解決策を教えてほしいタイプで。「なんでそうなるの?」って聞いたら、全部論理的に説明してくれて。ピルを飲むとどうなるかとか、どういう対処法があるかとか。その時に初めて「これって解決できるんだ」って知ったんです。
ふとんさん自分のせいじゃないんだってわかるだけで、気持ちがラクになりますよね。
関根さん本当にそうで。それまでは感情的に「辛い」って思う時間が一番辛かったんですけど、原因がわかれば対処できる。それ以来、辛い時は「これはホルモンのせいだ」って自分で理解できるようになりました。
B面その3:「もう無理だ」って諦めた日
ふとんさんほかにも感じる変化はありますか?
関根さん実は、妊娠してからがもっと激動でした!いつもとは全然ちがって。妊娠すると女性ホルモンが強くなると言いますが、その影響なのか、私の場合、特に仕事での考え方がすごく保守的になるんです。
ふとんさん保守的というと?
関根さん誰もやったことのないことに挑戦する時の怖さが、妊娠前が1だとしたら、妊娠後は100くらい。「何も変わらなくていい、現状維持でいい」って思っている自分と、「経営者として社会を変えなきゃ」って思っている自分が別人格みたいで。二重人格でやっている感覚でした。
ふとんさんそれは大変です……。
関根さん以前は、不安な日があっても「銭湯を社会に増やせるかもしれない」って思えたら、気持ちがブワッと上がったんです。でも妊娠してからは、上がらなくなった。下がることより、上がらないことの方がきつかったですね。
ふとんさんエンジンがかからない感じですか?
ふとんさんそうそう。妊娠6カ月目くらいに、「もう無理だ」って諦めた日がありました。会食も頑張れないし、気力も出ない。終わらないゆらぎ期みたいな感じで。夫に「私の分まで働いてくれ……」と、託しました(笑)。
自分の”トリセツ”を作って、共有する
ふとんさん気持ちが上がらない時って、どう過ごしているんですか?
関根さん私の場合は、自分の状態を言葉にして、夫に共有するようにしています。「今こういう状況だから、こういうことが起きるかもしれない。でも心配しなくていいよ」って、取扱説明書みたいに送るんです。
ふとんさんトリセツですね……!
関根さんたとえば「妊娠中は不安になりやすいから、外出中に”怖い”ってLINEしちゃうかもしれない。でも本当に怖いわけじゃないから、迎えとかいらないからね」みたいな(笑)。
ふとんさん先に説明しておくと、お互いラクですよね。
関根さんそうなんです。辛い辛いって言うだけだと、相手もどう寄り添っていいかわからないじゃないですか。だから、原因と対処法をセットで伝える。そうすると、自分も相手も消耗しなくて済むんです。
「無理して頑張る」を正解にしない
ふとんさん言葉にして伝えるって、すごくいいですね。やってみたいけど、うまくできるかな……。何かヒントってありますか?
関根さん私が小杉湯原宿のスタッフによく言っているのは、「”無理して頑張る”を正解にしないでほしい」、ということです。
ふとんさん無理して頑張らなくていい、ってことですか?
関根さん銭湯って365日、朝から夜中まで誰かが働いている長期戦、マラソンのようなものなんです。だから「今日踏ん張って、明日明後日体調崩しちゃうくらいなら、今日は踏ん張らないで」って伝えています。無理して体を壊したら、銭湯も続けられなくなっちゃうから。
ふとんさん長く続けるために、無理しない。
関根さんあと、私は定例会議で自分の状況を話すようにしています。「今、妊娠していてこういう状態です。重いものは持てないし、長時間の立ち仕事も出来なくなります」とか。
ふとんさんここでもトリセツですね。自分から開示する。
関根さんどうしても自分で抱え込んじゃう時ってあるじゃないですか。もし将来、うちのスタッフがそういう状況に陥った時に、言いたくても言えない子もいる。だったら、まず私が自分のことを話せばいいかなって。そうすると「言っていいんだ」って思ってもらえるかもしれないし、似たような状況になったら周りが何も言わずともサポートしてくれるかもしれないし。
ふとんさんたしかに、上の人が先に言ってくれると、話しやすくなりますね。
関根さん言える範囲でいいから、辛さの原因や解決策を探せるようになるといいなって思います。言ってくれたら、周りもサポートしやすくなるので。
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平和に過ごすためのエール
from 関根さん
学生の時に、DeNAの南場智子会長の講演を聞いたことがあるんです。「経営者にとって大切なことは何ですか?」という質問に、「胆力です」って。別の機会で、他の役員の方が同じような質問をされていたんですが、同じく「耐える力です」って答えられていて。キラキラした言葉じゃなくて、「耐える」っていう現実的な言葉だったことが、私にはすごく支えになったんです。「耐える」って聞くと苦しく感じるかもしれないけど、私は、どんどん落ちていく辛さじゃないって思っていて。よく言う、跳び箱を飛ぶ前に一回しゃがんでる感じ。今しんどくても、それは前に進むための準備期間。「ずっと続くものじゃない」って思えると、耐えられるんです。